【実話】父の免許更新が来年―「返納」をめぐって本人・家族間の攻防―&高齢者の免許更新制度の仕組み・返納の現実・Q&A

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①【実話体験談】はじめに ~来年1月が免許更新。すぐそこまで迫っている~

来年、父の運転免許の更新が来る。
それが分かった瞬間、胸の奥がざわついた。

「更新か……」
ただの事務手続きのはずなのに、私にとっては“家族の次の分岐点”のように感じた。理由ははっきりしている。父はこの一年、入院と手術を経験し、体力も生活のリズムも、以前とは確実に変わった。そして何より、最近は物忘れが増えている。さっき話したことをまた聞き返される回数が増え、説明を繰り返すたびに、私は笑顔の裏で小さな不安を積み重ねていた。

免許更新の通知が来て、父が「更新に行かなきゃな」と何気なく言ったとき、私は一度飲み込んだ言葉を、結局そのまま出してしまった。

「来年の更新のタイミングで、免許返納のことも一緒に考えない?」

言った瞬間、空気が変わった。父の表情が一気に硬くなる。
そして、想像していた以上の勢いで、父は怒った。

「まだまだ運転できる!そんなこと言うな!」

声の大きさに、私のほうが驚いてしまった。父の怒りは、単に“運転をやめたくない”という反発だけではない。そこには、もっと深いもの――「自分は衰えていない」「家族から“危ない人”扱いされたくない」「自分の人生のハンドルを、他人に奪われたくない」という、誇りや恐れが混ざっているように見えた。

私はすぐに、正面から「危ないからやめて」と言ってはいけない、と悟った。
たぶんそれは、父の尊厳を傷つける言い方になってしまう。
そして、父が意地でも“聞かない状態”に入ってしまう。

だから私は、話の順番を変えることにした。


「返納しろ」ではなく、「もしも」の話をした

私は父にこう言った。

  • 運転が上手い下手ではなく、年齢と体調の変化で“想定外”が起きやすくなること
  • 万が一、事故が起きたときに、父が一番つらい立場になること
  • そして、家族全員の生活が一瞬で変わってしまうこと

ここから先は、父のプライドを折る話ではない。
父の人生を守るための“現実の話”だ。

私が父に伝えた「万一」の具体例

怒っている父に、私は淡々と、でも丁寧に言葉を選びながら話した。

  • 事故は「大事故」だけじゃない
    ちょっとした接触でも、相手が転倒してケガをしたら、状況は一気に重くなる。
  • 相手が高齢者や子どもだった場合
    同じ事故でも、結果が大きく変わる。後悔してもしきれない。
  • 父が悪くなくても、世間は“高齢ドライバー”という枠で見る
    事故が報道されれば、父の名前が出なくても、周囲の目は変わる可能性がある。
  • 免許は「本人の自由」でも、事故の影響は家族にも及ぶ
    手続き、対応、謝罪、通院、生活の支え……家族の時間と心が削られる。
  • 一番つらいのは父自身
    “誰かを傷つけたかもしれない”という事実を抱えたまま生きるのは、想像以上に重い。

私は、感情をぶつけるのではなく、現実を一枚ずつテーブルに置くように話した。
父は最初、腕を組んで顔を背けていた。だが、途中から言い返す回数が減っていった。

怒りが消えたわけではない。
でも、「聞く耳」だけは少しずつ戻ってきた。


父が納得し始めた瞬間

私が最後に言ったのは、こんな言葉だった。

「お父さん、運転をやめろって言いたいんじゃない。
ただ、“もしもの確率”が少しでも上がってるなら、家族として一緒に備えたいだけ。」

父はしばらく黙っていた。
そして、ぽつりとこう言った。

「……事故は、嫌だな」

私は、その一言を聞いたとき、初めて“話が前に進んだ”と感じた。

父は「返納」にすぐ賛成したわけではない。
でも、「事故を起こしたら最悪だ」という前提を、父自身が口にした。
これは大きかった。


それでも父は「来年の返納」には抵抗がある

しばらく話し合いを続けた結果、父の気持ちが見えてきた。

  • 返納=敗北のように感じている
  • 「まだできるのにやめる」ということが、父の中で受け入れ難い
  • 運転は生活の一部であり、自由そのもの
  • 免許を手放すと、世界が急に狭くなる気がする

分かる。分かるけれど、家族は「分かる」だけでは守れない。
だから私は“落としどころ”を探した。


結論:「次の更新で返納」ただし、来年更新できなければその時点で返納

最終的にまとまったのは、こういう約束だった。

  1. 来年の免許更新のタイミングでは、返納はしない(父の気持ちを尊重する)
  2. ただし、その次の免許更新のタイミングで返納することは決める
  3. もし来年、更新に必要な検査や手続きが通らず更新できない場合は、その時点で返納する

父にとっては「急に奪われる」形ではなく、
「期限付きの卒業」にできた。
私にとっては、「無期限の先延ばし」ではなく、
「決めた未来」にできた。

この“期限”があるかないかで、家族の安心は全く違う。


私が残った不安――「来年、本当に更新できるのか?」

ここが、いま私の中で一番大きい。

父の物忘れは、日によって波がある。
元気な日は驚くほどしっかりしている。
でも、疲れている日は、同じ質問が増える。
入院や手術のストレス、環境の変化、睡眠の質、薬の影響……いろいろな要因が絡み合って、認知の状態は揺れる。

「今のままの父の認知機能で、来年更新できるのか?」

これは、父を疑っているのではない。
父を守るために、家族が現実を見ておく必要があるという意味だ。

そして、ここから先は「気持ち」だけではなく、
制度を知っておかなければならない。

だから私は、②として、免許更新の仕組みと制度、返納の現実、Q&Aまで整理しておこうと思う。
父に話すためでもある。
家族が迷わないためでもある。
そして、同じように悩んでいる誰かの助けになるかもしれないから。



② 高齢者の免許更新制度の仕組み・返納の現実・Q&A

※以下は日本の制度概要です。細かな予約方法や実施場所は都道府県で案内が異なるため、最終確認は各都道府県警察(免許センター等)の案内を参照してください。


1. 免許更新の基本(年齢に関係なく共通)

運転免許証の更新は、基本的に「有効期間満了前」に所定の手続きを行い、更新講習などを受けて新しい免許証を受け取る流れです。

ただし、70歳以上になると、更新時に追加の制度が入ります。
さらに75歳以上では、更新前に「認知機能検査」などが関わってきます。 参考:一般社団法人 全日本指定自動車教習所協会連合会


2. 70歳以上の更新で増えること:高齢者講習

70歳以上は「高齢者講習」が必要

70歳以上の方は、免許更新の際に高齢者講習を受ける必要があります(詳細は対象区分により異なります)。参考: 一般社団法人 全日本指定自動車教習所協会連合会

講習内容は、主に次のようなものが一般的に案内されています。


3. 75歳以上の更新で重要になること:認知機能検査・運転技能検査

75歳以上は「認知機能検査」が関係する

警察庁の案内では、更新期間満了時点の年齢が75歳以上の場合、認知機能検査等を受けることとされています。参考: 警察庁

検査は「認知症のおそれの有無」を調べる位置づけで、更新の前に受ける流れが示されています。参考: 一般社団法人 全日本指定自動車教習所協会連合会

さらに「一定の違反歴」があると運転技能検査が必要

75歳以上で、過去一定期間に一定の違反歴がある方は、更新時に運転技能検査に合格しないと更新できない仕組みが導入されています。 参考:警察庁


4. 法改正で変わったポイント(特に75歳以上)

75歳以上の更新手続は、道路交通法改正により見直しが行われています。警視庁の整理では、例えば次の点が改正事項として挙げられています。

  • 認知機能検査の検査方法の変更(項目の変更など)
  • 高齢者講習の一元化
  • 運転技能検査の新設

制度は「更新できる人を増やす/減らす」という単純な話ではなく、
危険の芽を早めに見つけ、安全に切り替えるための仕組みとして組み立てられています。


5. 認知機能検査とは何か(家族が知っておくべき意味)

家族が誤解しやすいのはここです。

  • 認知機能検査 = 「認知症の確定診断」ではない
  • しかし、更新手続の中で“おそれ”を判定する重要な位置にある

つまり、家族としてはこう捉えるのが現実的です。

  • 検査に通る/通らないは、父(母)の“価値”の問題ではない
  • 安全に運転を続けられる条件が満たせるかの問題
  • 結果に応じて、追加の手続きや判断が必要になる可能性がある

6. 自主返納とは何か:やめるのは「敗北」ではなく「手続」

自主返納の基本

運転免許証は、本人の意思で返納(自主返納)できます。
自主返納をした方や、更新を受けず失効した方は「運転経歴証明書」の交付を受けられる制度があります(条件あり)。 参考:警察庁

運転経歴証明書のポイント

  • 免許証に代わる本人確認書類として利用できる(一定の範囲で)
  • 自主返納後など一定期間内に申請できる(例:警視庁案内では返納日から5年以内など条件が示されています)
  • 「返納したら身分証がなくなる」という不安を、制度が補う形になっている

7. 返納した人たちは、社会の中でどうやって暮らしを組み直しているか

ここが一番大事です。
返納は「やめる」ではなく、生活を作り替えることだから。

多くの人がやっているのは、だいたいこの順番です。

(1)移動手段の再設計

  • 徒歩圏・自転車圏で完結する用事の整理
  • バス・電車の時刻表を生活に組み込む
  • タクシーを“特別な贅沢”ではなく“安全のためのコスト”として位置づける
  • 家族の送迎は「毎回」ではなく「重要な用事だけ」などルール化

(2)買い物・通院の仕組み化

  • 買い物:宅配・ネットスーパー・まとめ買いに切り替え
  • 通院:通院日を固定化し、家族支援や交通手段を確保
  • 薬:受け取り・服薬管理を一緒に仕組みにする

(3)“失うもの”より“守れるもの”を言語化

返納の会話は、こう言い換えると通りやすくなります。

  • 「運転をやめる」→「事故リスクを手放す」
  • 「自由が減る」→「家族の不安が減る」
  • 「年寄り扱い」→「賢い選択」

8. 返納のベストな時期はいつか(結論:家庭ごとに“最適解”が違う)

「何歳で返納が正解ですか?」という質問はとても多い。
でも、年齢だけで決めるのは危険です。

ベストな時期は、年齢よりも次の条件で決まります。

返納を検討すべきサイン(家族向けチェック)

  • 同じ話を短時間で繰り返す
  • 道順や目的地の取り違えが増える
  • 以前より“急いで判断する場面”が苦手になる
  • 車庫入れ・右左折・合流などでヒヤッとする回数が増える
  • 本人が「夜は運転したくない」「雨は怖い」と条件を増やし始める
  • 家族が“同乗するのが怖い”と感じ始める

ここで重要なのは、本人の自覚より、家族の体感が先に来ることが多いという点です。


9. よくあるQ&A(家族が揉めやすい論点を先回り)

Q1. 返納を切り出したら激怒されました。どうしたら?

A. まず「危ないからやめろ」を避けて、「もし事故が起きたら、誰が一番つらいか」の話に切り替えるのが有効です。制度の話は後からでいい。最初は感情の受け皿を作るのが先です。

Q2. 「まだ運転できる」と言われたら?

A. できる・できないの勝負にしないこと。
「できる前提で、事故を起こさない仕組みを作ろう」と提案し、

  • 更新制度(検査・講習)
  • 家族内ルール(夜間は乗らない、遠出はしない等)
  • 次回更新で返納など期限付き合意
    に落とし込みます。

Q3. 75歳以上の更新は何がポイント?

A. 認知機能検査等が関わり、一定の違反歴がある場合は運転技能検査に合格しないと更新できません。

Q4. 返納したら身分証明はどうする?

A. 運転経歴証明書が申請できます。免許証同様に本人確認書類として使える旨が公的機関から案内されています(対応していない機関もあるため注意)。

Q5. 返納は“かわいそう”です。本人が落ち込みそう。

A. 落ち込みを減らす鍵は、「返納後の生活設計」を先に見せることです。

  • 病院はどう行く
  • 買い物はどうする
  • 趣味や人付き合いはどう続ける
    ここが見えると、返納は“喪失”から“再設計”に変わります。

10. 家族にできる「現実的な落としどころ」モデル

あなたの①の結論(次回更新で返納/来年更新できなければ返納)は、とても現実的です。
同じ状況の家庭に、そのまま当てはめやすい“合意モデル”になっています。

合意を作るときのテンプレはこれです。

  • 短期(来年):制度に従い更新手続を受ける。結果が通らなければ返納。
  • 中期(次回):返納の期限を決めておく(先延ばしを終わらせる)。
  • 並行:返納後の生活設計(移動・通院・買い物・本人確認)を準備する。
  • 目的:「運転を奪う」ではなく「事故リスクを手放す」。

11. 最後に:返納の話は、家族の“覚悟”を整える作業

免許は、ただのカードではありません。
父にとっては、人生の自由であり、誇りであり、役割であり、暮らしそのものだったりする。

だから、返納の話は荒れやすい。
でも同時に、ここを避けて通ると、万一のときに家族が崩れます。

あなたが①でやったことは、
「父を否定する」ではなく、
「父の未来を守る」ための会話を作った、ということです。

そして②の制度理解は、家族の会話を“感情の衝突”から“現実の合意”へ引き戻してくれます。
制度を知ることは、家族を冷たくするためではなく、家族を守るための準備です。

次回は、もっと詳しく免許更新・返納について、特集を組みたいと思います。

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