【実話】父が突然「今すぐ家に帰る」と言い出し、緊急退院。―手術からわずか2日、病院からの一本の電話で始まった現実―


Contents

はじめに

それは、あまりにも突然だった。
そして、あまりにも現実的で、逃げ場のない出来事だった。

「まだ大丈夫だろう」
「もう少し先の話だろう」

どこかで、そう思い込んでいた自分を、昨日の出来事は一瞬で打ち砕いた。
認知症、介護、家族の役割――
それらが、一気に“現実”として目の前に現れた一日だった。


第1章|夕方に鳴った一本の電話――「今すぐ迎えに来てほしい」

昨日は朝から仕事で忙しく、気がつけばもう夕方だった。
「今日も一日が終わるな」
そう思い始めた頃、スマートフォンが鳴った。

相手は妻だった。

声のトーンで、ただ事ではないとすぐに分かった。

「パパ、今大丈夫?」
一呼吸置いて、妻は続けた。

お父さんがね、家に帰りたいって言って聞かないらしくて、病院から電話があったの。
どうしても帰りたいって言って、手が付けられないから、家族の人に迎えに来てもらえないかって…

頭の中が、一瞬で真っ白になった。

父は、一昨日と昨日に手術を終えたばかり
膀胱の手術は無事成功し、まだ術後2日目。
本来なら、病院で安静にしている時期だ。

妻は続けた。

「私が今から病院に迎えに行くから、
パパも仕事が終わったら実家に来てくれない?お願いね」

電話を切った後もしばらく、言葉が出なかった。

「なぜ、今なんだ」
「まだ2日目だぞ」

そう思う一方で、
「やっぱり来たか…」
という気持ちも、心のどこかにあった。


第2章|手術を忘れた父――説明しても、数時間後には白紙に戻る現実

父は、最近物忘れが激しくなっている。
入院したことも、手術をしたことも、すぐに忘れてしまう

入院した初日から、父は何度もこう聞いていた。

「なんで私は、ここにいるんだ?」

そのたびに説明する。
すると父は一度は納得する。

「そうか。分かった。仕方がないな」

だが、それも束の間。
数時間も経つと、すべて忘れて、また同じ質問を繰り返す。

手術当日も同じだった。

緊急手術が入った影響で、父の手術は予定より3時間も遅れた
長時間の待機に、さすがの父も我慢の限界だった。

「もう帰る!
なぜこんなに長い時間、ここにいないといけないんだ!」

怒鳴る父を、家族で必死に説得し、
ようやく手術室へ連れていった。

手術は無事成功した。

主治医の先生は手術後に来られ、
「がんばったね。手術はうまくいきました。
あと3~4日したら退院していいでしょう」
と話してくださった。

その言葉を、父は覚えているものだと思っていた。
――いや、正直に言えば、覚えていてほしかった

しかし、現実は違った。

次の日には、父は手術をしたことすら忘れていた。
弟が面会に行った時も、
「もう忘れていたよ」
と聞かされた。

そして、その弟が面会に行った日の夕方、
今回の出来事が起きたのだった。


第3章|「これが認知症か」――怒ってしまった自分と、家族の決意

仕事を終え、急いで実家に向かった。
正直、覚悟はしていた。

怒っている父。
混乱している父。
修羅場のような光景。

しかし、実家に着くと――
父は、何事もなかったかのような顔で、居間でくつろいでいた。

その光景に、拍子抜けすると同時に、
説明しようのない不安がこみ上げてきた。

これまでの経過を確認しようと、父に話を聞いた。
だが、父はあまりにも多くのことを忘れていた。

その瞬間、
自分の中の感情が抑えきれなくなった。

「なんで分からないんだ」
「さっきも説明しただろう」

――そして、暴言を吐いてしまった

あとで、強く後悔した。

「これが、認知症なのか」

頭では理解していたつもりだった。
でも、本当の意味で突きつけられたのは、この瞬間だった。

それでも、父の体は元気だ。
膀胱の手術を終え、また元気を取り戻した。
それは、何よりも喜ばしいことだ。

父は、自分の父親だ。
これまで母と、そして家族を支えてきてくれた、たった一人の父。

妻と、じっくり話し合った。

「これからは、怒らないで接しよう」
「柔軟に対応しないと、家族が持たない」

妻は、父の様子を見てすぐに異変に気づいたという。
自分より父と接する時間は少ないのに、
言動から「今までの接し方では通用しない」と感じ取ったらしい。

正直、驚いた。
そして、心から「すごい」と思った。

母もまた、身障者だ。
脳梗塞で倒れ、右半身麻痺と言語障害が残った。
それでも、できることは自分でやろうとしてくれる。

これからは、母と二人三脚で、
認知症の父を家族で支えていくことになる。


おわりに|「まだ大丈夫」は、ある日突然終わる

なによりも、手術が無事成功し、
父が元気を取り戻してくれたことに、心から感謝している。

こうして、
クリスマスも、正月も、家族で迎えられる。
それだけで、ありがたい。

自分が年を重ねる以上に、
両親もまた、確実に老いていく。

「まだ先の話」
そう思っていた現実は、突然、昨日やってきた

これからは、家族みんなで父を支えていく。
そう、心に強く決めた一日だった。


【続編】「もしかして…」を見逃してはいけない ―認知症の初期サインを、家族はどう受け止めればいいのか―


はじめに|「年のせい」では片づけられなかった違和感

正直に言えば、
最初は「年のせいだろう」と思っていた。

物忘れが増えた。
同じ話を何度もする。
さっき言ったことを、すぐ忘れる。

どれも、高齢になればよくある話だ。
だから、深刻には考えていなかった。

だが、今回の出来事で、はっきり分かった。

認知症の初期サインは、ある日突然“事件”という形で現れる
ということを。


第1章|それは「少しずつ」ではなく「ある日まとめて」やってくる

認知症の怖さは、
症状そのものよりも、家族の認識とのズレにある。

父の場合、最初の違和感はとても小さなものだった。

  • 同じ質問を何度もする
  • さっき説明したことを忘れる
  • 話のつじつまが、少し合わなくなる

どれも、「高齢だから」「疲れているから」と
理由をつけて見過ごせる程度だった。

しかし、入院・手術という環境の変化が引き金になった。

  • なぜ自分が病院にいるのか分からない
  • 手術したことを忘れる
  • 「帰りたい」という感情だけが強く残る

本人にとっては、
「説明」よりも「感情」が現実なのだ。

「怖い」
「不安」
「家に帰りたい」

その感情だけが、強く、何度もよみがえる。

家族がどれだけ理屈で説明しても、
数時間後には白紙に戻る。

この時、ようやく気づいた。

認知症は、少しずつ進むものではあるが、
家族にとっては「ある日まとめて突きつけられる現実」なのだ。


第2章|家族が最初にやってしまいがちな「間違い」

今回、自分ははっきりと失敗した。

父が何もかも忘れていることに対して、
感情的になり、暴言を吐いてしまった。

あとで深く後悔した。

だが、これは決して珍しいことではない。

認知症の初期段階で、
家族がやってしまいがちな反応がある。

❌ よくある家族の反応

  • 「さっきも言ったでしょ!」
  • 「なんで分からないの?」
  • 「いい加減にしてくれ」

これは、相手を責めているようで、実は“正常さ”を求めている言葉だ。

でも、認知症の前では、
その「正常さ」自体が、もう通用しない。

本人は、わざと忘れているわけではない。
理解しようとしていないわけでもない。

記憶が、そこに留まれないだけなのだ。

頭では分かっていても、
感情が追いつかない。

だからこそ、
「怒ってしまう自分」を責めすぎないことも、
家族にとっては大切だと感じた。


第3章|妻が教えてくれた「受け止め方」のヒント

今回、強く印象に残ったのは、妻の反応だった。

妻は、父の認知症の姿を見て、
すぐに察したという。

「これは、今までの接し方では通用しない」

父と接する時間は、
自分よりずっと少ないはずなのに。

それでも、
言動の違和感から、本質を見抜いていた。

妻が言った一言が、今も心に残っている。

「正しい説明より、安心させる言葉が必要なんだと思う」

確かにそうだ。

  • 正確な日付
  • 正しい状況説明
  • 現実の事実

それらは、本人にとっては“苦痛”になることもある

むしろ大切なのは、

  • 「大丈夫だよ」
  • 「ちゃんと家族がいるよ」
  • 「心配しなくていいよ」

という、感情を落ち着かせる関わり方なのだと気づかされた。


第4章|「受け止める」とは、諦めることではない

認知症を受け入れる――
それは、決して「諦める」ことではない。

  • できないことを責めない
  • 忘れることを否定しない
  • 感情を真正面から受け止める

これは、新しい関係を築くことなのだと思う。

父は、体はまだ元気だ。
手術も成功し、以前よりも元気になった。

だからこそ、
これからの時間を、できるだけ穏やかに過ごしてほしい。

そのために、
家族が「変わる」必要がある。

怒らない。
正そうとしすぎない。
一人で抱え込まない。


おわりに|「気づいたとき」が、最初の一歩

認知症の初期サインは、
教科書のようには現れない。

むしろ、

  • 家族が疲れているとき
  • 忙しいとき
  • 余裕がないとき

そんな時に、
一気に現実として押し寄せてくる。

だからこそ、
「気づいたとき」が、最初の一歩だ。

今回の出来事は、
自分にとって、
そして家族にとって、
大きな転機になった。

これからは、
家族みんなで父を支えていく。

その覚悟とともに、
同じ立場にいる誰かの気づきになればと思い、
この続きを書きました。

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