🌸 ほっこりカフェ物語 ― 続編 ― ~おばあちゃんに癒されよう~🌸

― 小さな町の、大きなぬくもり のお話 ―

※第1話~第10話はホームページの「ブログの発信・企画」に移りました。一番下のメニュー欄からもご覧いただけます。※

第11話 新しい風

ゆうたくんが町を出てから、少し静かになったカフェ。
そんなある日、旅行中の大学生グループが、地図を片手に迷い込むように入ってきました。
古い木の引き戸を開けると、甘酒の湯気と木の香りに包まれた空間に思わず顔をほころばせます。
「なんだか懐かしいね」
そう言いながらおにぎりを頬張り、スマートフォンで写真を撮る姿は、これまでの常連とはまた違った明るさを持っていました。

帰り際、彼らはSNSに「奇跡みたいに落ち着けるカフェを見つけた」と投稿しました。
その小さなつぶやきが、思わぬかたちで新しい人を呼び寄せるきっかけとなっていくのです。


第12話 お手伝いデビュー

ある放課後、さくらちゃんが照れくさそうに「おばあちゃん、手伝わせて」と申し出ました。
はなさんは驚きながらも嬉しそうに、エプロンを渡します。
水を張った桶で皿を洗う手はぎこちなく、注文を聞きに行くと声が小さくてお客さんに聞き返される場面もありました。
けれど、その一生懸命さに、常連たちは微笑み、店内にはいつもより柔らかな空気が流れていました。

「ここに来ると、子どもも育つんだねぇ」
たけしさんが新聞をたたみながらつぶやいた言葉に、はなさんは目を細めました。
カフェはまたひとつ、新しい役割を果たしていたのです。


第13話 忘れられた傘

梅雨空の午後、古びた一本の傘がカフェの入口に取り残されていました。
柄の部分は使い込まれて艶があり、どこか懐かしい匂いさえ感じます。
次の日、慌てた様子で現れた中年の男性は、その傘を抱きしめるように受け取りました。
「この傘、亡くなった妻の形見なんです」
そう言って静かに頭を下げる彼の目には涙がにじんでいました。

はなさんはただ「ここにあってよかったね」と微笑みました。
忘れ物が、悲しみを越えて大切な記憶をつなぎ直す出来事になる――カフェにはそんな奇跡が息づいていました。


第14話 七夕の願いごと

夏の夜、子どもたちが手作りの短冊を抱えてカフェに集まりました。
「テストでいい点が取れますように」
「ラテ(子猫)がずっと元気でいますように」
「お父さんの仕事がうまくいきますように」
ひとつひとつの願いが竹の枝に吊るされて、カフェの庭は小さな天の川のようにきらめきます。

その光景を見上げたはなさんは静かに言いました。
「願いごとが集まると、ここも星空みたいになるね」
夜風に揺れる短冊は、町の人の夢や祈りをやさしく照らしていました。


第15話 秋の読書会

秋の夜長。
いつも新聞を読んでいたたけしさんが「たまには昔話を読んでやろう」と提案しました。
初めは照れくさそうにしていた子どもたちも、語り口に引き込まれるうちに静かに耳を澄まします。
「むかしむかし、あるところに――」
低く温かな声は、カフェ全体を包み込み、夜はあっという間に更けていきました。

「新聞ばかり読んでたおじいちゃんが、こんなに上手に話すなんて」
さくらちゃんが感心してつぶやくと、はなさんも誇らしげに笑いました。
その夜、カフェは小さな図書館のような顔を持ったのです。


第16話 落ち葉のじゅうたん

秋も深まり、庭は落ち葉で埋め尽くされていました。
子どもたちはほうきを持ち出し「掃除大会だ!」と声を上げます。
集めた葉を山にしては飛び込み、またかき集めては笑い転げました。

大人たちも最初は苦笑いしていましたが、やがて一緒に葉を集め始めました。
「掃除って、こんなに楽しいんだね」
カフェの庭は、笑顔と落ち葉で彩られ、冷たい風さえ心地よく感じられました。


第17話 お正月の鏡もち

新しい年の朝、はなさんは小さな鏡もちを飾りました。
子どもたちは「お年玉!」と元気に駆け込んできます。
「ここで“あけましておめでとう”を言うのが、ぼくらの恒例なんだ」
得意げに言うゆうたくんのいない席を、ラテがちょこんと埋めていました。

はなさんはお年玉の代わりに、あたたかい雑煮をふるまいます。
笑顔でお餅を頬張る姿を見て、「お金より、こういう時間が宝物だね」とつぶやく声が響きました。


第18話 卒業アルバム

さくらちゃんが中学校を卒業する日。
友達を誘ってカフェに集まり、アルバムを広げます。
「ほら、ここも写真に残ってる!」
ページの中には、カフェでの笑顔やラテと遊ぶ姿がいくつも貼られていました。

「この場所があったから、頑張れたんだ」
その言葉に、はなさんは涙をこらえてにっこり微笑みました。
カフェは、子どもたちの思い出にもしっかり刻まれていたのです。


第19話 旅の手紙

春の訪れとともに、一通の手紙がポストに届きました。
差出人は遠い街で暮らすゆうたくん。
「都会は忙しいけれど、ここを思い出すと元気が出ます。次の休みに帰りますね」
その文字をなぞるように読んだはなさんの目元がゆるみました。

「やっぱり、ここはみんなの帰る場所だね」
カフェにいる誰もが、静かにうなずきました。


第20話 再会の春

春。カフェの庭の桜が再び満開になった日。
玄関の戸が開き、懐かしい声が響きました。
「ただいま!」
ゆうたくんが大きな荷物を背負って帰ってきたのです。

子どもも大人も一斉に「おかえり!」と返し、カフェの中は大きな笑い声で包まれました。
はなさんは「またおにぎりを握らなくちゃね」と笑い、ラテは嬉しそうに尻尾を振りました。

――小さな町に、大きなぬくもりを残しながら。
ほっこりカフェはこれからも、人と人をつなぐ灯りであり続けるのです。

(つづく)

Contents