
はじめに
2025年11月10日、日経平均は高値圏を維持しつつも、個別の中小型株に物色の矛先が向かった一日でした。
そのなかで、一般にはほとんど名前が知られていないデジタル医療銘柄 Welby(4438) が、終値ベースで前日比+80円(+28.57%)の360円ストップ高まで急騰し、東証グロース市場の値上がり上位銘柄として一気に注目を集めました。
出来高も通常の数倍規模に膨らみ、「何か材料が出たのでは?」「テーマ性のある小型株が動き始めた?」と感じた投資家も多いはずです。
とはいえ、
- そもそも Welbyって何をしている会社なのか?
- 赤字続きのベンチャーに、投資妙味はあるのか?
- 今日これだけ急騰した具体的な理由と、今後のシナリオは?
といった疑問を持つ方も多いでしょう。
そこで本記事では、Welby(4438)を
- 企業内容(ビジネスモデル・強み)
- 業績・財務と株価指標
- 今日の急騰要因とこれからのシナリオ
の3つの観点から、できるだけ平易な言葉でとことん深掘りしていきます。
読み終えたころには、
- 「なぜ今日、この“無名銘柄”がここまで買われたのか」
- 「PHR×マイナ保険証というテーマのど真ん中で、どんな将来像が描けるのか」
が、かなりクリアになるはずです。
なお、公式サイトはこちら:
▶︎ 株式会社Welby 公式サイト:https://welby.jp/
※注意 本記事は 特定銘柄の「買い」や「売り」を推奨するものではありません。 実際に投資判断を行う際は、必ずご自身で最新の IR資料・決算短信・チャート・ニュース を確認したうえで、リスク許容度に応じて判断してください。
第1章 Welby(4438)とはどんな会社か?
──PHRプラットフォームの“隠れ本命”
1-1 会社概要とビジネスモデル
株式会社Welby は、2011年設立・本社東京都中央区のデジタルヘルス企業。
事業の柱は、患者や家族が自分の健康・医療情報を記録・保存し、
医療者と共有できる PHR(Personal Health Record)プラットフォーム の提供です。
参考:Welby(ウェルビー)
IR情報では主な事業を次の2つに分類しています。
- 疾患ソリューションサービス
- Welbyマイカルテサービス
いずれも、
- 生活習慣病(高血圧・糖尿病 等)
- がん(オンコロジー)
- 中枢神経系疾患
- 自己免疫疾患・希少疾患
といった、誰にとっても他人事ではない疾患領域に向けて、スマホアプリやWebサービスを通じて「患者の自己管理」と「医療者との情報共有」を支援するサービスです。
なかなか面白いと思いませんか?
私的には、いい発想だと思います。
PHRってなに? という方には、ざっくりこうイメージすると分かりやすいです。
「診察券・お薬手帳・検査結果・日々の血圧や体重など、バラバラに存在していた情報を、スマホの中の“自分専用カルテ”として集約する仕組み」
これを医師・医療機関・製薬企業と連携させることで、“点”だった診療を“線”でとらえる医療 に近づけていくのが、
Welbyの描く世界観と考えます。
1-2 大手製薬企業との協業実績
Welbyを語るうえで見逃せないのが、大手製薬企業との協業実績です。
- 中外製薬 と、がん患者の治療支援PHRサービスで連携 参考:中外製薬
- ノバルティス ファーマ と、高血圧患者の血圧管理PHRサポートで協業 参考: Welby(ウェルビー)
いずれも、
- 患者の状態を日々モニタリングしつつ、
- PHR上のデータを活用して、治療継続や服薬アドヒアランス(飲み忘れ防止)をサポートする
といった“デジタル治療支援”の実証プロジェクトとして位置づけられています。
ポイントを整理すると:
- PHRというまだ新しい領域で 10年以上の実績
- 名だたる製薬企業との協業により、単なる「ヘルスケアアプリ屋」ではないポジション
- がん・希少疾患など、付加価値の高い領域までサービスを展開
といった強みを持っています。
1-3 マイナ保険証・マイナポータルとの高い親和性
もう一つのキーワードが 「マイナ保険証」と「マイナポータル」 です。
2024年末から健康保険証の新規発行が終了し、マイナンバーカードを保険証として使う「マイナ保険証」 が本格運用へ。
あわせて、マイナポータルを通じて薬剤・健診データが確認できる仕組みも整備が進みました。
Welbyはこの流れに乗り、PHRサービス「Welbyマイカルテ」とマイナポータル連携キャンペーンを実施。マイナポータル経由で健康データを取得し、それをPHRで管理できる仕組みを打ち出しています。
公的データ(レセプト・健診)
+ 患者自身の自己記録データ
という組み合わせをPHR上で扱えるようになると、PHRは単なる記録アプリではなく、「医療DXの中核インフラ」 に近づいていきます。
この文脈で、Welbyは今後の「PHR社会実装」の本命候補の一つと見なすことができます。
第2章 業績と財務の現状
──“赤字縮小中”の成長投資フェーズ
2-1 売上は二桁成長、赤字は縮小傾向
2025年12月期第2四半期(中間期)決算では、Welbyの売上高は約2.88億円(前年同期比+55.3%) と高成長を維持。一方で、営業損失は約2.5億円と依然赤字ですが、前年同期の3.07億円の営業損失からは縮小しています。参考:Yahoo!ファイナンス
会社計画では、2025年12月期通期で
- 売上高:11.52億円
- 営業損失:0.86億円
と、売上を伸ばしつつ赤字幅の縮小を見込む姿勢を示しています。
ここから読み取れるのは:
- 売上は高い伸びを維持
- 赤字は「拡大」ではなく 「縮小」 に転じている
- 将来成長に向けた開発・マーケティング投資を続けながらの数字
という点です。
イメージとしては「黒字化目前」ではなく、「まだ投資フェーズだが、スケールの芽が見え始めたPHRプラットフォーム」といった段階でしょう。
2-2 セグメント別の動き
決算要約を見ると、主力2事業の動きは次のようになっています。参考:Yahoo!ファイナンス
- Welbyマイカルテ
- 売上高が前年同期比 約5.7倍 と大幅増収
- 疾患ソリューションサービス
- 一部案件の反動などで減収
つまり、
「案件型(製薬企業向けの個別プロジェクト)」から
「PHRプラットフォーム型(マイカルテIDを積み上げるストック収益)」へシフト中
という構図です。
投資家目線でいうと、
- 案件型
- 単価は高いが、案件ごとに売上がブレる
- プラットフォーム型
- 単価は低いが、ID数が増えるほどストック収益が積み上がる
Welbyは後者の「ストック型」へ重心を移しつつあり、
「ID数の積み上げ」=「将来の収益レバレッジ」 という構造が出来つつある段階です。
2-3 財務体質とリスク
スタートアップらしく赤字投資フェーズが続く一方で、最新の指標を見ると自己資本比率はおおむね60%超と健全圏にあり、
直ちに資金繰りが危機的という状況ではありません。参考:Yahoo!ファイナンス
ただし、
- 今後も開発・マーケ費用を継続的に投下する必要がある
- PHR市場の立ち上がりが遅れた場合、増資などによる追加調達 の可能性もある
といった「成長株ならではのリスク」は、あらかじめ織り込んでおく必要があります。
ここまでを投資判断の観点で整理すると:
- 売上の成長性
→ 現時点では高く、PHR市場の拡大余地も大きい - 利益のトレンド
→ 赤字縮小中だが、黒字化にはもう一段の伸びが必要 - 財務体質
→ 今すぐ危ない水準ではないが、長期投資なら希薄化リスクも想定
というバランス感覚が求められます。
2-4 株価指標から見たWelbyの“立ち位置”
2025年11月10日時点の終値360円ベースでの主な株価指標は、概ね次のようなイメージです。
- 株価:360円(S高、前日比+28.57%)
- 時価総額:約30億円弱
- PER:赤字のため算出不可(マイナス)
- PBR:おおむね4〜6倍台(指標の算出方法により差あり)
- 配当利回り:0%(無配)
- 単元株価格:約3万6000円
ここから読み取れるポイントは:
- 利益が出ていないため、PERでは評価しづらい純然たる成長株
- 純資産に対してはそれなりのプレミアム評価(PBR複数倍)
- 絶対額としての時価総額はまだ小さく、「伸びしろ」と「値動きの荒さ」 の両方を内包
ということです。
PBRが高いからと言って即「割高で買えない」と決めつけるのではなく、
「市場が、PHRプラットフォーム・提携ネットワーク・データ基盤などの無形資産 に一定の価値を見ている」
と解釈するのが自然でしょう。
一方で、業績が期待どおりに伸びなかったり競合に押された場合には、その「期待プレミアム」が一気に剥落するリスクもあります。
投資家としては、
- 短期の値動きではなく、中長期でPHR市場全体が伸びるか
- その中でWelbyがどのポジションを取れるのか
- 「売上成長 → 黒字化 → キャッシュ創出」という流れを描けるか
といったストーリーを、自分なりの数字シナリオに落とし込んでおくと、株価のブレにも振り回されにくくなります。
第3章 今日の急騰要因と今後のシナリオ
──「PHR本格実装」相場の入口か?
3-1 NTTドコモ系との業務提携報道がトリガー
今回の急騰で最大の直接要因となったのが、グループ会社 Welbyヘルスケアソリューションズ(WHS) と、NTTドコモの100%子会社「ミナカラ」 との業務提携発表です。参考:Welby(ウェルビー)
プレスリリースによると、この提携では:
- 健保組合など「保険者」向けの 重症化予防プログラム として、
- オンライン診療へのアクセス → オンライン服薬指導 → 調剤薬の宅配受け取り
までを一気通貫でサポートする新たな仕組みを共同で構築 - 2025年度内に複数の健康保険組合での導入を目指す
とされています。
これは、PHRを土台にして「働く世代」の医療アクセスを大きく変え得る取り組みであり、
WelbyグループのPHR基盤に乗るデータと利用者数が飛躍的に増える可能性を示唆するニュースです。
市場ではこの材料が好感され、Welby株は出来高を伴って急騰、ストップ高(360円) まで買われました。参考:株探
3-2 「マイナ保険証×PHR」への中長期期待
短期的には「材料→ストップ高」という分かりやすい動きですが、その背景には「マイナ保険証×PHR」への中長期の期待もあります。
- マイナ保険証の本格運用で、レセプト・健診データのデジタル化が加速
- マイナポータルを通じて、患者自身が公的医療データを閲覧・管理できるように
- 政策的にも「医療DX」「重症化予防」「データヘルス」が強く推進されている
こうした中で、PHRを実際にサービスとして提供し、マイナポータル連携なども進めているWelby は、テーマ性の観点からも「ど真ん中」に位置しています。
今回の業務提携は、そのテーマ性を具体的なビジネスに結びつける一歩と受け止められ、「これはトレンドの入口かもしれない」と感じた投資家の資金が流入したと考えられます。
3-3 株価水準と投資家心理
360円という株価は、いわゆる「低位株」ゾーン。
単元株価格が3万6000円程度と個人投資家にも手の届きやすい水準であることから、
- 「少額で将来のテンバガー候補を仕込みたい」
- 「テーマ性あるグロース株を一つぐらいポートフォリオに入れておきたい」
というニーズとの相性が非常に良い銘柄です。参考:Yahoo!ファイナンス
ただし、低位×小型×成長株という条件がそろうと、どうしても
- 一度材料が出ると、上げも下げも「振れ幅」が大きくなる
- 好材料→ストップ高→その後の「出尽くし売り」というパターンもありがち
という“お約束”の値動きになりやすい点には注意が必要です。
3-4 Welbyに感じる“伸びしろ”と“課題”
ここで、Welbyという銘柄について感じられるポジティブ要因とリスク要因を整理してみます。
【伸びしろ(ポジティブ要因)】
- PHRという成長余地の大きい市場で、10年以上の実績を持つ先行プレイヤー
- 中外製薬・ノバルティスなど、大手製薬企業との協業が多数
- マイナ保険証・マイナポータルとの親和性が高く、「医療DX」「重症化予防」政策の追い風を受けやすい
- 今回のミナカラとの提携で、健保組合向けのビジネス展開に具体性が出てきた
- Welbyマイカルテの大幅増収など、ストック型収益への転換が進みつつある
【課題(リスク要因)】
- 現時点ではまだ営業赤字が続いており、黒字化時期は不透明
- PHRという概念自体が一般には浸透途上で、普及には時間がかかりうる
- 医療DX領域の競合プレイヤー(電子カルテベンダーや他のPHR事業者)も増えてきている
- 成長投資を続ける以上、状況によっては増資などによる株式価値の希薄化リスクがある
3-5 ここだけは押さえたいチェックポイント
実際にWelbyを「これからウォッチしていく銘柄」の一つとするなら、どこを見ていけばよいでしょうか。
実務的な観点で、チェックポイントを整理しておきます。
【IR・決算でチェックしたい指標】
- Welbyマイカルテの ID数 とアクティブ率
- 疾患ソリューション案件数と、1案件あたり売上規模の推移
- PHR/PROを活用した臨床研究・エビデンス創出案件の増減
- 売上総利益率(粗利率)の改善トレンド
- 販管費(人件費・広告費など)の中身と増減要因
- 営業損失の水準と、経営陣が語る黒字化のロードマップ
【ニュースでチェックしたいトピック】
- 製薬企業・保険会社・自治体との新規提携・実証事業
- マイナポータル・電子カルテベンダーとの連携強化ニュース
- 医療DX・PHRに関する政府政策(補助金・規制緩和など)
- 競合PHRプレイヤーや医療DXベンチャーの動き(M&A・資金調達 等)
【株価・チャート面で意識したいポイント】
- 急騰・急落時の出来高(トレンドか一時的な“噴き値”か)
- 年初来高値や直近高安値などの節目価格
- 中期トレンド(25日・75日・200日線との乖離)
- 信用残の偏り(個人のポジションが買いに偏りすぎていないか)
こうした項目をノートやスプレッドシートに整理し、四半期ごとに変化を追っていくと、
Welbyを「材料が出たら買う・売るだけのテーマ株」ではなく、
“PHRプラットフォーム企業の成長ストーリー”
として冷静に観察しやすくなります。
おわりに──無名急騰株を“物語”で捉える
今日のように、まだあまり知られていない小型成長株が一日で30%近く急騰すると、
- 「完全に乗り遅れた…」
- 「今から飛び込んでも大丈夫なのか?」
といった感情がどうしても先に立ちます。
しかし、本来株式投資は 「目先の値動き」だけを見るゲームではなく、企業が描いている“物語”に長く付き合う営み でもあります。
Welby(4438)の物語は、
- バラバラに存在していた日本の医療・健康データを、患者主体でつなぎ直す
- マイナ保険証やマイナポータルと連携し、「点」の診療を「線」で捉える医療へ
- 生活習慣病やがんといった、誰にとっても身近な疾患領域で「治療の質」と「生活の質」を同時に高めていく
という、非常に社会的インパクトの大きいテーマを内包しています。
もちろん、株価がこの先も一直線に上がる保証は一切ありません。
むしろ途中では何度も調整し、ときには市場から忘れ去られたように低迷する局面もあるでしょう。
それでも、
- 「日本の医療DX・PHR市場の行方を見届けたい」
- 「小型グロース株のストーリーに、少額から付き合ってみたい」
と感じる投資家にとって、今日のWelby急騰は「初めて真剣に調べてみるきっかけ」 としては悪くないタイミングかもしれません。
最後にもう一度だけ強調しておくと、本記事は 特定銘柄の「買い」や「売り」を推奨するものではありません。
実際に投資判断を行う際は、必ずご自身で最新の IR資料・決算短信・チャート・ニュース を確認したうえで、リスク許容度に応じて判断してください。

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