
はじめに
「日経平均5万円台」「AI関連株バブル?」——2025年の日本株を語るとき、どうしてもこんなワードが飛び交います。
実際、10月には日経平均が 5万2411円台の史上最高値 をつけ、1か月で16%超も上昇するという“30年ぶりクラス”のラリーが起きました。
牽引したのは、ソフトバンクG、アドバンテスト、東京エレクトロンなど、AI・半導体ど真ん中の銘柄 です。
ただ、このあたりの「主役級AI銘柄」は、すでに株価もそれなりに“お高い”ところまで来ています。
そこで今回は、「日経AI相場のうねりの中で、まだ個人投資家が入りやすく、しかもテーマのど真ん中にいる日本株」 として、
さくらインターネット(3778)
を1銘柄に絞って、じっくり研究してみます。
- 会社のプロフィール
- どんなAIビジネスをしているのか
- 最新決算と成長ストーリー
- 現在の株価・PER・PBR
- そこから見える「期待シナリオ」と「リスク」
までを、投資初心者でも追いかけやすいように、できるだけ平たい日本語で整理します。
※注意:本記事はあくまで「学習用・研究用」の内容であり、個別銘柄の売買をすすめるものではありません。が、最後まで読んでいただけたらためになる材料をぎゅっとまとめてあります。最終判断は、ご自身の目的・資金・リスク許容度に照らして行ってください。
第1章 2025年の日経平均とAI相場——なにが起きているのか
まずは「日経平均を研究してから」とのリクエストにお応えして、2025年の日本株全体の流れからざっくり押さえます。
1-1 日経平均は“AIと半導体”に引っ張られている
野村證券のレポートによると、2025年の年初から10月末までに日経平均は 約1万1431円 上昇しましたが、そのうち およそ7割(71%超)を、ソフトバンクG・アドバンテスト・東京エレクトロンのたった3社が稼いでいる そうです。参考:野村證券
つまり、
「指数は大きく上がっているけれど、上げ幅の大半はAI・半導体の一部大型株が引っ張っている」
というのが2025年相場の実態です。
さらに10月には、米国のビッグテック好決算やAI投資期待、円安の追い風も重なって、日経平均は5万2411円台の史上最高値・月間16.6%高と、30年ぶりレベルの暴騰 を記録しました。
加えて、光ファイバーでAIデータセンター需要を取り込んだフジクラ(5803)は、年初来で株価+160%以上 と、日経採用銘柄の中でも“AIインフラのスター銘柄”になっています。
1-2 資金は「AI関連」に偏り続けている
マネー誌やマーケットコメントでも、「半導体や人工知能(AI)関連株へ資金が集まりやすい状況が続いている」と指摘されています。ダイヤモンド・オンライン
- 日経平均の上昇
- AIデータセンター投資(国内外)の拡大
- 高市政権によるAI・デジタル投資への期待
こうした要因が重なって、AI・半導体・データセンター周辺の銘柄に、資金と話題が集中しているのが現状です。
1-3 「もう乗り遅れた?」という感覚が出てきている
ここまで話すと、多くの投資家が感じるのはこれです。
「もうAI株は上がりきっていて、今から買うのは遅いのでは?」
確かに、ソフトバンクGや東京エレクトロン、フジクラのような“主役組”は、2025年に入ってからものすごい上昇を経験しており、短期的には割高感・過熱感 も意識されます。
そこで今回のテーマは、
「すでに急騰した主役ではなく、AI相場のど真ん中にいながら、まだ“2列目〜3列目”にいる日本株」
そんな観点から選んだのが、さくらインターネット(3778) です。
第2章 さくらインターネット(3778)ってどんな会社?
2-1 会社プロフィール
ブリッジレポートなどの公開情報をもとに、さくらインターネットの基本情報を整理します。
- 会社名:さくらインターネット株式会社(SAKURA internet Inc.)
- 証券コード:3778
- 上場市場:東証プライム(情報・通信業)
- 本社所在地:大阪府大阪市北区大深町6-38 グラングリーン大阪 北館 JAM BASE 3F
- 代表者:代表取締役社長 田中邦裕
- 決算期:3月期
- 主な事業:データセンター、クラウドサービス、GPUクラウドなどのデジタルインフラサービス
- 公式サイト:https://www.sakura.ad.jp/
もともとはレンタルサーバー・ホスティングで成長してきた会社ですが、近年は
- 自社データセンター
- パブリッククラウド
- GPUクラウド(「高火力」など)
といった“AI時代のインフラ”へと軸足を移しつつあります。
2-2 どこが「AI銘柄」なのか
ポイントは、さくらインターネットが
「AIを動かす側(モデルそのもの)ではなく、AIを支える“電気・箱・計算基盤”を提供する会社
だということです。
① GPUクラウド:生成AI向けの計算基盤
2025年3月期決算では、売上高が 前年同期比43.9%増の314億円、営業利益が 同+368.7%の41億円 と、かなりインパクトのある成長を遂げました。b
この成長を牽引したのが、生成AI向けのGPUクラウドサービス です。
- 生成AIの学習・推論には、大量のGPU計算資源が必要
- 「自社でGPUサーバーを大量に抱えるのはしんどい」企業に対し、さくらがクラウドとして提供
- 結果として、GPUクラウドサービスがクラウド事業と並ぶ柱に成長した、とレポートされています。
2026年3月期の会社計画でも、GPUクラウド売上は 前期比149%増 を見込んでおり、生成AIブームを背景に引き続き高成長を狙っています。
② 国産生成AIエコシステムへの参画
2025年9月には、Preferred Networks(PFN)、情報通信研究機構(NICT)とともに「国産生成AIエコシステム構築」で基本合意 を結んだことが報じられ、株価がストップ高→大幅続伸となりました。株探
ここで意識されているキーワードが「ソブリンAI(国ごとのAI)」です。
- 政府は「国産AI」の開発支援を打ち出し、国産AI関連銘柄11選 の1つとしてさくらインターネットの名前が挙がっています。
- つまり、政策面でも“国産AIインフラの中核候補”として認識されている ということです。
③ 「さくらのAIソリューション」:国内完結型の生成AIサービス
2025年10月、さくらインターネットは 「国内完結型の生成AI業務支援サービス『さくらのAIソリューション』」 を開始すると発表しました。
- 自社のGPUクラウドサービス「高火力」上で、基盤モデル+業務アプリケーションをパッケージ提供
- 開発〜導入〜運用までを一気通貫で支援
- 利用企業のデータが国外に出ない“国内完結型”をうたう
これは、単にGPUを貸すだけでなく、
「AIを実際に業務で使うところまで伴走する」
方向への一歩であり、ARPU(顧客あたり売上)アップや継続課金につながりやすい取り組みと考えられます。
2-3 最新決算が語る“攻めの投資”
2026年3月期第2四半期の決算説明では、
- 売上高:前年同期比 17.8%増 と上期として過去最高を更新
- 一方で、GPU投資・人件費増などにより 営業損失9.2億円 を計上
という内容でした。
ログミーファイナンスの書き起こしによると、
- GPUインフラストラクチャーサービス:前年同期比 +25.9%
- クラウドサービス:同 +10.2%
- ガバメントクラウド認定に向けた開発・人材採用を一気に進めており、「いまは投資先行期」と説明しています。
つまり、売上は順調に伸びているものの、AIインフラ・政府向けクラウドに先にお金を突っ込んでいるため、足元の利益はあえて削っている 状態、と言えます。
これを「危ない」と見るか、「攻めの投資」と見るかで、銘柄評価はまったく変わってきます。
第3章 株価・指標・将来シナリオから見た「今」のさくらインターネット
ここからが、投資家的に一番気になるところです。
「今の株価で、どう判断するか?」 を、データとストーリーで整理します。
3-1 現在の株価とバリュエーション
Yahoo!ファイナンスによると、2025年11月7日(金)終値時点 の主な指標は以下の通りです。Yahoo!ファイナンス
- 株価:3,150円
- 時価総額:約 1,319億円
- 年初来高値:5,020円(2025/2/4)
- 年初来安値:2,677円(2025/7/30)
- 予想PER:630倍(EPS予想5円)
- 実績PBR:4.29倍(BPS約735円)
- 実績ROE:14.99%
- 自己資本比率:36.9%
- 最低購入代金:31万5,000円(100株単位)
数字だけ見ると、
- 株価水準:3,000円台なので、ソフトバンクGや一部ハイテクのような“10万円超の1株”に比べると、金額としてはまだ入りやすい。
- 指標面:PER630倍というのは、純粋なバリュエーションとしては「かなり高い」。ただし、これは “投資先行で利益をあえて抑えているため、一時的にEPSが小さくなっている” ことが影響しています。
ブリッジレポートを見ると、2025年3月期実績のEPSは 75.23円、PER約52.8倍 でした。bridge-salon.jp
2026年3月期会社予想ではEPS60円を見込んでおり、もしこのような水準に利益が実際着地すれば、
- 「実力EPSベースのPER」はざっくり 50〜60倍台 に戻ってくる
- 今のPER630倍というのは、「一時的にEPSが落ち込んでいる」状態をそのまま割り算した結果
と考えることもできます。
ただし、「実力EPS」が本当に維持・成長できるかどうかは、今後のGPUクラウド・AIソリューションがどこまで伸びるかにかかっています。判断がむずかしいところです・・・
3-2 期待シナリオ:国産AIインフラの“準主役”へ
ここからは、あくまで「シナリオ」としての話です。
シナリオ① GPUクラウド・AIソリューションが順調に拡大
- 2025年3月期実績:売上高314億円、営業利益41億円(営業利益率13%強)。
- 2026年3月期予想:売上404億円(+28.6%)、営業利益38億円(投資増でやや減益)。
- GPUクラウド売上は通期で前年比+149%を計画。 参考:bridge-salon.jp
仮に、
- 2027年〜2028年にかけて、
- 売上成長が年率20%前後で続き、
- 営業利益率も10〜15%台を維持できるとすると、
- EPSが再び70〜80円超の水準へ戻る・あるいはそれ以上になるシナリオも、十分「絵」としては描けます(あくまでざっくりイメージ)。
このとき、市場が「AIインフラの成長株」として PER40〜50倍 程度を許容し続けるなら、
- EPS80円 × PER40倍 = 3,200円
- EPS100円 × PER50倍 = 5,000円
といった株価水準は、“理屈の上では”射程に入る レンジになります。
しかし、そうもうまくいかないことも頭にいれておくことも肝心。
実際、年初来高値の5,020円は、このような期待シナリオが一度株価に織り込まれた水準と考えることもできます。参考:Yahoo!ファイナンス
シナリオ② 国産AI・ガバメントクラウドが追い風に
- 政府は「国産AIの開発支援」を掲げ、さくらインターネットを含む11銘柄を“国産AI関連株”として取り上げています。参考:資産運用の 1st STEP
- さくら自身も、
- PFN・NICTと国産生成AIエコシステム構築へ基本合意
- ガバメントクラウド正式認定を目指し、開発投資を継続
- 国内完結型の生成AI業務支援サービスを開始
と、「日本のデジタル主権×AIインフラ」ど真ん中のポジション を狙っています。株探
もし、
- ガバメントクラウド認定
- 官公庁・自治体・大企業での採用拡大
- 国産生成AI基盤との連携強化
などが順調に進めば、「ニッチだけど、長期で効いてくるストック型の売上」 を積み上げられる可能性があります。
この場合、短期のPERだけで判断するよりも、
「何年後に、どれだけの売上・利益規模になっていそうか」
という、ストーリー投資の色合い が強くなります。
3-3 リスクシナリオ:投資先行が長引く・競争激化
もちろん、良い話だけではありません。リスクもかなりはっきりしています。
- GPU・データセンターへの先行投資が長引き、利益回復が遅れる
- 海外勢・国内大手(NTT、富士通、日立、日本オラクルなど)との競争が激化し、価格競争に巻き込まれる資産運用の 1st STEP
- AIソリューションが思ったほど拡大せず、「ただのインフラ屋さん」にとどまる
- AIブーム自体が一服し、関連株全体のバリュエーションが下がる
こうしたシナリオでは、
- EPSがなかなか増えない → 高PER状態が長引く
- 成長期待が剥落 → 株価の大きな調整
という展開もあり得ます。
要するに、「攻めの投資が、ちゃんと実を結ぶかどうか」 が、この銘柄の最大のリスクであり、同時に最大の魅力でもあるわけです。
3-4 今の株価3,150円をどう評価するか(私なりの整理)
2025年11月7日時点の 3,150円 という株価は、
- 年初来高値5,020円からは 約38%下の水準
- 年初来安値2,677円からは 約18%上の水準
つまり、AIブームのピークから一定の調整を経て、“山の中腹あたり” にいるイメージです。
この水準をどう見るか、をざっくりまとめると:
- 「絶対に割安」とまでは言えない
- PER・PBR指標だけ見れば割安ではありません。
- 成長株としてのプレミアムをどこまで許容するかは、投資家次第。
- 「AIインフラ成長シナリオに賭けるなら、分かりやすい1銘柄」
- 政策(国産AI・ガバメントクラウド)
- 技術(GPUクラウド・AIソリューション)
- マネジメント(田中社長による長期的なインフラビジネス志向)
が一体となっている点で、テーマ性は非常に強い。
- 初心者がいきなり全力で突っ込む銘柄ではない
- 価格変動も大きく、信用残も多い(信用倍率0.93倍)。
- ボラティリティが高いので、「ポートフォリオの一部に」「金額を絞って」「長期目線で」が前提。
- 私ならこう考える
- 「国産AIインフラに乗りたい」「政策・テーマを意識した成長株も少し持ちたい」
→ その一候補として、さくらを “少額でウォッチしながら持つ” のはアリ。 - ただし、決算と投資計画を必ず追いかけることが前提。投資だけ先行して利益が全く出ないようなら、一から考え直しましょう。
- 「国産AIインフラに乗りたい」「政策・テーマを意識した成長株も少し持ちたい」
おわりに——この銘柄から何を学ぶか
さくらインターネット(3778)を、日経平均とAI相場の文脈の中でじっくり見てきました。
この記事で一番お伝えしたかったのは、
「銘柄を1つ選んで、とことん調べると、数字の裏にストーリーが見えてくる」
という感覚です。
- 日経平均は、AI・半導体の一部大型株にぐいぐい引っ張られている
- その裏側では、AIを支える光ファイバー、GPUクラウド、データセンターのような“インフラ株”もじわじわと評価されている
- さくらインターネットは、その「国産AIインフラ」のど真ん中を狙っている中堅どころ
という構図を知っておくだけでも、ニュースの見え方が少し変わるはずです。
最後に、さくらを「今買うべきか?」という問いに対して、あえてブログ風にまとめると——
- 短期で一気に儲けたい人向きではない。
- AIインフラという長い波に、少し早めに乗っておきたい人向き。
- “応援したい・追いかけたいストーリー”を感じるなら、少額からゆっくり付き合うのがちょうどいい。
この銘柄を買う・買わないは別にして、
「こうやって一社を深掘りしてみると、AI相場の裏側や日経平均の中身が見えてくるんだな」と感じてもらえたら、この記事を書いた意味があります。


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